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福岡地方裁判所 昭和61年(行ウ)17号 判決

北九州市門司区藤松一丁目二〇番一号

原告

稲田英俊

右訴訟代理人弁護士

長網良明

同区清滝三丁目五番三〇号

被告

門司税務署長

大木宗男

右指定代理人

田邊哲夫

末廣成文

高木功

江崎福信

鵜池勝茂

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  (主位的請求)

被告が昭和六〇年三月六日原告の昭和五六年分所得税についてした更正並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定(ただし、更正については異議決定により、重加算税賦課決定については異議決定及び審査裁決により、一部取り消された後のもの)はいずれも無効であることを確認する。

2  (予備的請求)

被告が昭和六〇年三月六日原告の昭和五六年分所得税についてした更正のうち総所得金額三五一七万一七四〇円、納付すべき税額一三〇〇万七五〇〇円を超える部分並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定(ただし、更正については異議決定により、重加算税賦課決定については異議決定及び審査裁決により、一部取り消された後のもの)をいずれも取り消す。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告は、別表記載のとおり、確定申告に係る原告の昭和五六年分所得税について、更正(以下「本件更正」という。)並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定(以下「本件決定」といい、本件更正と本件決定を併せて「本件各処分」という。)をした。

2(一)  原告は、右確定申告に係る税額四一〇円六九〇〇円を納付したが、本件各処分による増額分の税金を納付していないため、被告は、本件各処分に基づき、原告の預金等約一〇〇〇万円を差し押され、引き続き滞納処分を行おうとしている。

(二)  しかし、原告の昭和五六年分所得税についての更正等は、昭和六〇年三月一五日までにしなければならず(国税通則法七〇条一項)、更正等は、税務署長が更正通知書等を送達して行う(同法二八条一項)ものであるところ、原告は、右期限までに本件各処分の送達を受けていない。

よつて、本件各処分は無効である。

3  仮に本件各処分が有効であるとしても、原告は、右送達を受けないうちに、別表記載のとおり右所得税の修正申告を行い、これが受理されたのであるから、右有効の限度は原告が右修正申告で認めた総所得金額及び納付すべき税額の範囲内にとどまるべきものである。

なお、原告は、本件各処分の実体上の当否については争わない。

よって、原告は、主位的に、本件各処分が無効であることの確認を求め、予備的に、本件更正のうち原告が修正申告において認めた総所得金額三五一七万一七四〇円、納付すべき金額一三〇〇万七五〇〇円を超える部分及び本件決定の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の(一)の事実は、認める。(二)の事実は否認する。被告所部係官は、昭和六〇年三月六日、更正及び決定通知書を原告の居宅で原告に手渡し、もつて、右期限内に交付送達による適法な送達を行つた。

3  同3のうち、原告が修正申告書を提出したことは認めるが、本件各処分の有効な限度については争う。

第三証拠

証拠関係は、本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりである。

理由

一  請求原因1及び2の(一)の各事実は、いずれも当事者間に争いがない。

二  そこで、請求原因2の(二)の送達の点について判断する。

1  証人原貞二の証言により真正に成立したものと認められる乙第三号証、同人の証言及び原告本人尋問の結果によれば、被告所部の係官原貞二は、昭和六〇年三月六日午後二時ころ北九州市門司藤松一丁目二〇番一号の原告の居宅に赴き、封筒に入れて封緘した原告の昭和五六年ないし昭和五八年分所得税についての更正及び加算税の賦課決定通知書を門扉のところまで出て来た原告の妻に手交し、同女は、右封筒を持つて、いったん居宅内に入つたこと、原告は、同女から居宅内で右封筒を受け取り、これを開封した後、原貞二が待っている門扉のところまで出て行き、同人にたいし、重加算税の賦課決定について納得することができない旨及び右通知書は受け取れないので返却する旨申し出たこと、これに対し、原貞二は、やむを得ず本件通知書の返却を受けたことが認められる。

右事実によれば、本件各処分は、法定の期限内である昭和六〇年三月六日、交付送達の方法により適法に送達さたと認めるが相当である(国税通則法七〇条一項、二八条一項、一二条一項本文、四項)。その後の原貞二による本件通知書受領の事実は、右判断を左右するものではない。

2  これに対し、原告本人は、封筒を開封したのは原告が門扉のところに出て行つた後である旨、また、原貞二から送達報告書(乙第三号証)に署名押印を催促されたことはない旨供述するが、右1で認定したところによれば、原告は、右封筒を開封して右通知書の内容を確認した上でこれを原貞二に返却したのであるから、本件における送達の効力に関し開封の時点が問題となることはない。また、送達報告書への署名押印は送達の適法要件ではないから、右催促がなくとも、交付送達が適法に行われたとの右認定、判断を左右することはない。

3  なお、原貞二は、右1の後の同日午後二時五七分ころ、右通知書を再封の上、同僚の係官江藤文弘立会いの下に、原告居宅の郵便受けに投函した旨証言する(前掲乙第三号証参照)のに対し、原告本人は、右事実はないと供述するけれども、右のとおり、本件送達は、原貞二が原告に右通知書を交付したと認められる時点で適法に行われているのであるから、右差置きの事実の有無は、右送達の効果に何ら影響を与えるものではない。

よって、本件各処分は、手続上適法であつて、原告の主位的請求は、その余を判断するまでもなく失当であることが明らかであり、予備的請求も、その余を判断するまでもなく失当というほかない。

三  以上の理由により、原告の本訴各請求は、いずれもこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行訴法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判断する。

(裁判長裁判官 小長光馨一 裁判官 橋本良成 裁判官 岩木宰)

(別表)

〈省略〉

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